『ウンドゥンヒョンウェトリ(隠遁型ひきこもり)』 は
犯罪者でしょうか?

いや、寂しいだけです。


韓国インターネット新聞「ohmynews」より

精神科医 ヨ・インジュン医師へのインタビュー
韓国では、いつ頃からか、『ウンドゥンヒョンウェトリ』を犯罪者扱いするようになりました。そのように表現する人に会うと私は、「あなたたちは『ウンドゥンヒョンウェトリ』に、一人でも会ったことがあるのですか?」と尋ねています。なぜなら、もし会ったことがあるならば、そのように言うことは絶対ないでしょうから。そのこどもたちの状況や事情を聴くと涙がでてきて、「助けてあげなければならない」という気持ちになります。ですから、彼らを犯罪者だとは言ってはいけないと思うのです。

『ウンドゥンヒョンウェトリ』の日本語である『ひきこもり』という言葉が、韓国で知られるようになった後、韓国社会は凶悪犯罪が起きるたびに犯罪者を、『ウンドゥンヒョンウェトリ』と見なす傾向があります。もし、連続殺人事件が発生したならば、「被疑者は『ウンドゥンヒョンウェトリ』だ」という見出しがついてまわります。

しかし、東南精神病院のヨ・インジュン院長は、このような断定がとても危険だと強調しています。ヨ・インジュン院長は、韓国における『ウンドゥンヒョンウェトリ』研究の第一人者であり、彼は2000年から2002年までに、師匠であるイ・シヒョン医学博士、サムソン社会精神健康研究所、江北サムソン病院とともに『ウンドゥンヒョンウェトリ』の青少年への研究を通して、日本の『ひきこもり』のような現象が、韓国国内にも存在していることを初めて明らかにしました。その後、ヨ・インジュン院長は韓国と日本を行き来し、両国の『ウンドゥンヒョンウェトリ』治療にエネルギーを注いでいます。

2009年の3月16日に、ソウルのチュンチョンロにある東南精神病院で、私はヨ・インジュン院長(以下院長)に会い、話を伺いました。


『ウンドゥンヒョンウェトリ』と『犯罪型ウェトリ』は違います。「部屋の中に閉じこもる」という意味の「ひきこもる」の名詞形である『ひきこもり』は、「6ヶ月以上、家の外に出ないで、家族以外に親密な関係が無い人」と定義されています。しかし、このように『ひきこもり』を定義するなら、ひきこもりの範囲がとても広くなってしまいます。例えば、発明家が構想を練るために6ヶ月間外に出なくても、誰かが足が折れて6ヶ月間外出できなくても、みんな『ひきこもり』のカテゴリ-に含まれてしまうからです。このような混乱を防ぐために、院長は、既存の『ひきこもり』に対する定義に、2つの条件を付け加えました。一つは「生産性がないこと」、もう一つは「一人で過すのがつらい」ということです。

院長は、『ひきこもり』の特徴と考えられているインターネット中毒の場合、中毒は快楽のカテゴリーに入るため、ひきこもりではないと言っています。「マニア」をはじめとする「オタク」も同様とのことです。

日本では、『ひきこもり』という言葉が普通名詞化し、「閉じこもっている人」という意味で、とても広範囲に使われるようになっていますが、それは韓国でも一緒です。でも、『ひきこもり』としてひとくくりにしてしまってはいけません。韓国の多くの偉人がそうであった『創意的ウェトリ』という人たちがいますし、私が『反社会的ウェトリ』と呼ぶ『犯罪型ウェトリ』もいます。そして『ウンドゥンヒョンウェトリ』もいます。『ウェトリ』ではあるけれど、皆違うのです。

しかし、『ウンドゥンヒョンウェトリ』という言葉が普通に使われるようになり、誰に対しても容易に『ウンドゥンヒョンウェトリ』だとラベルを貼ってしまう傾向が現在、生じています。犯罪が起きれば『ウンドゥンヒョンウェトリ』の話題になりますが、犯罪を起こした人たちは『ウンドゥンヒョンウェトリ』ではありません。単に一人で過ごしたからというだけでも、容易に『ウンドゥンヒョンウェトリ』にしてしまうのです。ニート(NEET)の場合でも、『ウンドゥンヒョンウェトリ』という概念が混同されて使われるために、概念が曖昧になってしまっています。日本では、凶悪な犯罪が起きた場合、犯罪者を『ひきこもり』だと言いません。『ひきこもり状態である人』という表現をします。韓国においても犯罪者を『ウンドゥンヒョンウェトリ』と表現してはいけないのです。なぜなら、『ウンドゥンヒョンウェトリ』に対して世間が否定的に見るようになってしまうからです。


日本の『ひきこもり』と韓国の『ウンドゥンヒョンウェトリ』の間にはどんな違いがあるのでしょう。

院長は、『ひきこもり』を「エスプレッソ」に、『ウンドゥンヒョンウェトリ』を「カフェラテ」にたとえて説明してくれました。「日本の『ひきこもり』は、韓国の『ウンドゥンヒョンウェトリ』に比べてひきこもる期間が長く、症状もより深刻です。これは日本社会の文化的背景とも関連があると思います。日本では、一人で過ごすことに周囲はあまり気をとめません。社会のなかで、一人で過ごしやすくなっているからです。それに比べて韓国では、ご飯を一人で食べたり、一人で外を歩くだけで、おかしな人だと見なされるため、社会が一人でいることを放っておかないのです。ですから韓国の『ウンドゥンヒョンウェトリ』は、6ヶ月以上ではなく『3ヶ月以上家の外に出ないこと』が基準になっています。そして、『ウェトリ』には、人間関係がないという意味が含まれているように、『人との関わりがない』ということも基準になっています。」


『ウンドゥンヒョンウェトリ』はどのように生じてきたのでしょう。

『ウンドゥンヒョンウェトリ』の原因について、院長は、社会的要因よりも個人的性向から研究しています。もちろん、家庭、学校など社会からの影響はありますが、根本的な原因としてとらえるのは難しい、とのことです。

最も重要なのは個人的性向です。受験に失敗したり、仲間外れにされたり、失恋をしたりと、私たちの人生には挫折というものが、生きていれば数え切れないほどあるものです。しかし、先天的であろうと後天的であろうと、挫折から這い上がれない人々がいます。『ウンドゥンヒョンウェトリ』は、そのような挫折を克服できず閉じこもってしまうのです。院長は、風邪に例えて「風邪はウィルスが原因ですが、免疫力が強い人はあまり風邪をひきません。『ウンドゥンヒョンウェトリ』は挫折に対する免疫力が弱い人達なのです。そして『ウンドゥンヒョンウェトリ』は、コミュニケーションが苦手な人です」と説明してくれしました。

コミュニケーションが苦手であるために一人でいるわけですから、そのようなこどもたちのコミュニケーション能力を育み、挫折した心を癒すことは、精神科医としての役目です。そのこどもたちが、『ウンドゥンヒョンウェトリ』ではないこどもたちのような社会生活をうまく送ることができないとしても、彼らが自分の思う通りにしたいことができるようサポートすることが、最善だと思っています。

院長は、『ウンドゥンヒョンウェトリ』を「生物学的な病気」としてとらえなければならないと言及しています。それは、診断して治療を行わなければならず、治療をすれば治る病気であるということです。そして以下のように続けました。「通常、来院してくる『ウンドゥンヒョンウェトリ』は、風邪を引いて来院するように、いきなり来るのではなく、2~3年間部屋のなかに居ることが耐えきれなくなって来院してきます。そして彼らに対しては、グループセラピー、リズムセラピー、薬物治療など、8種類の治療方法を組み合せて使い、訪問治療を通して3~5年間部屋のなかにいたこどもたちが治ったケースもあります」。しかし問題は、病院を訪ねて来る『ウンドゥンヒョンウェトリ』のこどもたちがそれほど多くないということなのです。「10年間治療をしてきましたが、『ウンドゥンヒョンウェトリ』患者数は、220名ほどしかいませんでした。『ウンドゥンヒョンウェトリ』は治療しなければならない病気なのに、人々はそのことを知らないのです。そのまま治るだろうと思い、5年、10年と時間が過ぎてしまいます。最も重要なのは診断です。なぜならば、統合失調症とうつ病の治療法が違うように、『ウンドゥンヒョンウェトリ』 の治療も治療法が違うからです。」と院長は述べています。


メディアは、なぜ犯罪事件が起きると『ウンドゥンヒョンウェトリ』を探すのでしょう。


院長は、「『ウンドゥンヒョンウェトリ』の診断は難しい」と述べています。それは『ウンドゥンヒョンウェトリ』のこどもたちがなかなか病院を訪れないからなのです。そのために、事例研究が思い通りに進んでいないため、『ウンドゥンヒョンウェトリ』の概念が明確に確立できていません。このことが治療に困難を与える悪循環を生んでいます。

そして院長は、『ウンドゥンヒョンウェトリ』に対する社会の偏見に言及し、特に『ウンドゥンヒョンウェトリ』に対して否定的な意味合いを持たせているメディアを強く批判しています。「メディアは、以前は『ウンドゥンヒョンウェトリ』に対して関心を持たなかったにもかかわらず、犯罪が起きれば私を訪ねてきます。2007年4月にバージニア工科大学銃乱射事件を起こした在米韓国人であるチョ・スンヒの時もそうでした。しかし、『ウンドゥンヒョンウェトリ』はそのような人間ではありません。彼らは、大人しいこどもたちなのです。大人しいから挫折するのではないでしょうか。反社会的犯罪など絶対できないのです。頭にきて親を殴ることはできたとしても、外に出たら何も言えないのです。しかし、社会が彼らを犯罪者扱いするならば、挫折した彼らを二度殺してしまうことを意味します。」

「私たちは、『ウンドゥンヒョンウェトリ』がどこに、どれだけの数いるのかわかりません。日本においても正確には把握できていません。では、どのようにこれらのこどもたちを探したらいいのでしょう。現時点では、周りから探し出すしかありません。家族や学校の友達や先生など周りにいる人たちが連れてこなければなりませんが、『ウンドゥンヒョンウェトリ』を否定的にとらえるために、彼らは姿を見せないのです。だから解決もされません。『ウンドゥンヒョンウェトリ』のこどもたちに、『治療できる』という希望を与え、部屋から出るように導くことが大切なのです。」と、院長は締めくくりました。

(文責:贄川治樹)

この記事は、ヨ・インジュン院長の承諾のもと、「NPO法人全国引きこもりKHJ親の会」が翻訳したものを贄川が、読者が容易に理解できるように校正したものです。ヨ・インジュン院長、ならびにKHJ親の会に、感謝いたします。